心不全の原因と症状
心不全とは
心不全は病名ではなく、心臓の病気やさまざまな負担が原因となり、引き起こされる状態のことを意味します。
心臓がもつ本来の機能が低下し、うまく働くことができなくなってしまいます。
心臓の2つの役割
人間が生きていくためには、体の各所に十分な酸素供給と栄養を行きわたるせることが必要です。
その酸素や栄養を運ぶ役割を担うのが血液、そして血液を循環させるためにポンプの働きをするのが心臓です。
ポンプ機能(全身に血液を送り出す機能)の役割は2つあります。
1つは血液を送り出す働き、もう1つは血液を受け取る働きです。
十分な血液がポンプ内に満たされて、はじめて十分な量の血液を体内に送り出すことができます。
「血液を受け取る仕事」と「血液を送り出す仕事」の両方を担う心臓ですが、
ポンプの働きが落ちると、心臓が送り出す血液の量(心拍出量)は少なくなります。
人間の体はその危機に対応して、バックアップ機能を備えています。
- 1:ポンプの中の血液を増やして、送り出す血液量を調整する。(心拡大)
- 2:1回の拍出量が減った分、拍出回数(脈拍数)を増やす。
などが主な機能です。
全身の血液量は一定でも、手足の血管を収縮させて心臓や肺へ循環させる血液を増やす必要があります。
また全身の血液量自体を増やすような、複雑な指令系統が作動するようにできているのです。
これらの変化は、心拍出量の減少を防ぐために一時的な効果が期待できます。
しかし長期的には、逆に心臓へ負担をかけてしまいます。
それによって心臓の働きはますます低下し、なんらかの症状として表れるため注意が必要です。
※ 症状が出る前から、水面下で病気は進行していることが多いです。
心不全の原因
心不全をきたす原因は一つではありません。
心筋梗塞や心臓弁膜症など、あらゆる心臓病はもちろん、例えば高血圧で長年、心臓に負担がかかっている場合などでも、しだいにその働きが落ち、心不全の原因となります。
心不全は現在、欧米ではトップの頻度の疾患で、1,000人当たり7.2人が心不全を患っているとされています。
生活習慣の欧米化が進む日本でも、ほぼ同程度に迫っていると考えられます。
このうちの約50%が、狭心症や心筋梗塞が原因となっています。
いろいろな原因で心臓の病気になり、これに増悪因子が加わって、心不全症状が現れます。
心不全の症状
心不全の症状は、大きく分けて以下の2つに分類されます。
心臓のポンプ機能が低下
全身に血液が十分行き届かないことで、低心拍出の症状があらわれます。
- 疲れやすい
- 不眠
- 手足の冷え など
血流が停滞
血液が身体にたまることによる、うっ血の症状があらわれます。
- 足のむくみ
- 咳、息苦しさ、息切れ
- 体重増加 など
また、心不全は症状が安定しているかどうかによって、大きく2つに分類されます。
- 急性心不全→安定した状態から急激に悪化するケース
- 慢性心不全→体全体のバランスがとれ、状態が安定しているケース
急性心不全の場合と慢性心不全の場合では、治療法は異なります。
また、心不全の治療は原因となる病気によっても異なりますので、まずは早期検査をオススメします。
心不全の治療
治療の原則
治療は以下になります。
① 急性期は血流停滞の症状、ポンプ機能低下症状の改善を速やかにはかる治療
② 慢性期は心臓の負担をとることにより長期予後を改善させる治療
③ 心不全の原因となった基礎疾患の治療
が必要です。
急性心不全の治療
風邪、過労、ストレスが引き金になって急性心不全が起こることがよくあります。
また、急性心不全が原因不明の突然死の原因になることも考えられます。
一般に急性心不全の時は安静が必要です。
入院を必要とすることが多く、酸素吸入や一時的に心臓の働きを高める薬を使います。
基本的には運動制限が必要ですが、安定期では逆に負担にならない程度の適当な運動も必要です。
慢性心不全の治療
心臓に対しては、むしろ過度な刺激から守る薬を用います。
血管拡張剤、β遮断薬を中心に、適宜利尿剤やジギタリスなどを加えます。
- 血管拡張剤(アンギオテンシン変換酵素阻害剤など)
→ 心臓にかかる負担を軽くする薬 - β遮断薬
→ (長期的)心臓に障害を与えやすい神経やホルモンの作用を抑制する薬
<注意>
しだいに体調が良くなると「病気が治った」と勘違いし、自己判断で薬の服用を中断してしまう方がいらっしゃいます。
投薬の中断は、症状が悪化するリスクがあります。
薬を変更は、必ず主治医に相談してください。
原因となる病気に合わせた治療
高血圧が原因の場合
高血圧は心臓の負担となり心臓肥大を誘発します。
生活習慣の見直しをはかり、血圧のコントロールが極めて重要となります。
狭心症や心筋梗塞が原因の場合
冠動脈に風船(バルーン)を入れて膨らませ、この動脈の流れをよくする風船治療や、冠動脈バイパス手術などが必要となります。
弁膜症が原因の場合
心臓弁膜症では、弁を人工弁と取り替える人工弁置換術などが必要となる場合があります。
しかし、ご高齢で弁膜症を患っている方は、開胸手術が困難な場合も少なくありません。
近年では、そのような患者さんにはカテーテル治療を検討します。
カテーテル治療は低侵襲手術(身体への負担が少ない手術)であるというメリットがあり、臨床応用されています。
- 大動脈弁狭窄症という弁膜症
→カテーテルを用いて弁置換術を行う「経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)」 - 僧帽弁逆流症という弁膜症
→カテーテルを用いて弁を修復して逆流を制御する「経カテーテル的僧帽弁修復術」
などの治療を選択できる場合があります。
心筋症(とくに拡張型心筋症)が原因の場合
標準的な内服治療以外にも、両心室ペースメーカー治療(心室再同期治療:CRT)によって効果が期待できるケースもあります。
当院での取り組み
心不全の診断と重症度評価
心不全は生活の質の低下をもたらすだけでなく、患者さんの生命予後に大きく関わる重要な疾患です。
正確迅速に診断を行い、適切な治療を行うことが必要です。
一度、症状が安定したとしても、急性増悪を繰り返したり、進行性に増悪しうる疾患でもあります。
これらの予防のためにはきめ細やかな管理が必要となります。
当院では、
- 問診・理学所見
- 胸部単純写真
- 心電図検査
- 採血
- 心臓超音波検査
などを踏まえて、心不全の診断や重症度評価を行います。
速やかな検査および診断によって、適切な治療に結びつけますので、何か不安なことがありましたらお気軽にご相談ください。
入院加療が必要と判断されれば、連携医療機関に紹介いたします。
原因究明を意識した検査治療
まずは原因疾患を見極めることが大事です。
原因究明を意識した検査治療が重要視されますので、常にそれを意識しながら基礎疾患の評価を行います。
当院では、心臓超音波(心エコー)検査や心電図検査を実施し、提携医療機関にて適宜心臓CTやMRI、心臓カテーテルなどを行います。
心不全は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら経過する病気なので、上手に付き合っていくことが大切です。
心不全治療は生涯継続となりますので、
- ① 内服の継続
- ② 食生活に気を付ける
- ③ 継続的な自己管理
大きくわけて以上の3つを重視しながら、外来でフォローさせていただきます。
① 内服に関して
体調の良い日が続くと、つい服薬を忘れてしまう方は多いのではないでしょうか?
内服の中断は心不全悪化の原因の代表格であることがわかっています。
心不全の薬は種類が多く、飲むのが大変という方も少なくないと思いますが、忘れることなく必ず継続して内服してください。
② 食生活に関して
日頃の食生活では、塩分の制限が最も重要です。
塩分の過剰摂取は、体の中の血液量が多くなる要因となり、心臓に負担をかけます。
塩分の目安は、「1日6g未満」です。
塩分を取り過ぎないように注意しましょう。
③ 自己管理に関して
心不全は長く付き合っていく病気です。
毎日、血圧測定や体重測定を行い、自己管理していくことが大切です。
- 内服の継続
- 塩分制限
と合わせて、ご自身で管理できるようにしていくことを心がけましょう。
心不全を疑う症状が出ていないか、かかさずチェックする習慣を身にることも重要です。